海の底には何がある

これは日記だ。ブログじゃない。

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こないだアクセプトになった論文が公開の運びとなる。さすがOA誌。動きが速いぜ。つうことで、内容の紹介をば。

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クモのオスの交尾器(本当は交接器と書くのが正しいのだけど、ここでは「交接」をすべて「交尾」と書きます)は、付属肢が変形したもので触肢と呼ばれる。触肢はもともと脚だから左右2本が口の横についている。オスは、糸で精網と呼ばれる構造を作りその上に精子を出して、スポイトのようになっている触肢の先で吸い取ることで交尾の準備を行うのである。メスの交尾器にも受け入れ孔は二つあって、それぞれ別の貯精嚢につながっている。ということで、クモのメスは貯精嚢を完全に満たすためには2回の挿入を必要としている。

さて私の大好きギンメッキゴミグモは一連の交尾バウトの終わりにメスの交尾器につく小さな突起である垂体が切除されることで交尾器破壊が起こり、破壊されてメスは以後の交尾能力を失うことが知られている。本種の場合、一回の交尾バウトが2回の挿入から構成されており、オスは一回目の挿入の際に左右どちらかの触肢のみを精子の受け渡しに使い、二回目は一回目とは別の触肢を使って精子を受け渡す。で、垂体の切除はほとんどの場合一回目の挿入時には起こらず二回目に起こる。これは一回目の挿入時に交尾器が壊れると、オスが精子の受け渡しを完遂できなくなることから、合理的である。

ここで問題は、じゃあクモはどのように交尾器破壊のタイミングを二度目の挿入時に調整しているのか?と言うことである。2つの可能性がある。一つ目は、オスが挿入の回数をカウントしていて、一度目には何もせず二度目に一気に切る、ということである。もう一つの可能性は、各挿入時にオスは切除部を右からと左からと半分ずつ切るので、両方の触肢を使った二度の挿入が起こって初めて垂体が切除される、ということである。

この2つの可能性を検討するため、一度目の挿入が終わった段階で、メスを別の個体に交換して、オスにとっては二度目だがメスにとっては一度目の挿入という状況を作りだした。一つ目の仮説が正しければ、垂体は切除されていると予想されるが、そのようなことは起こっていなかった。また、オスの左右の交尾器のどちらか一本の先端をゾーリンゲン製の精密ハサミでちょんぎって、片方だけしか使えなくしたオスを作り、そのようなオス二個体とメスを交尾させる実験も行った。この場合、一個体のオスあたり一度の挿入となり、二個体のオスと交尾することでメスは二回の挿入を受けるのだが、オスの組み合わせによってその二回が右右、ないし左左と、片側だけしか挿入しない場合と、両側で挿入する場合を作ることができる。こうすると両側で挿入が起こった場合は有意に高い頻度で垂体は切除されていた。このことから二番目の仮説、オスは挿入のたびに垂体を片側から半分だけ切っていると言うことが示唆された。このようなやり方は、一度目の挿入時に、不測の事態が起こって交尾が中断してしまった場合に、オスの父性を高める効果があると考えられる。以上

The timing of female genital mutilation and the role of contralateral palpal insertions in the spider Cyclosa argenteoalba

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オープンアクセスなので、誰でも読めます。興味のある方は是非御一読を。