海の底には何がある

これは日記だ。ブログじゃない。

ビギナーズ・ラック

去年の3月、ヨメサンが島本町に某書類を情報公開請求したのである。で、帰ってきたのが26ページ中23ページが全部黒塗りという、いわゆるのり弁。この書類は某会社が事業を進めるにあたって町に渡した計画書のようなもので、それを公開すると会社と事業に関係する住民に著しい不利益があることが明らかなものなので非公開である、と、そういう町のロジックだ。ところが、町が通知してきた書類には、何が著しい不利益なのか具体的な説明が全くなかった。情報公開制度の基本的な考え方は、公の持つ情報はすべて住民のものなので基本的に公開すべきであり、他者の権利を侵害することがはっきりしている時のみ非公開が許されるというものなので、今回のように具体的な説明もなく非公開にするなんて制度の趣旨を踏まえていない処分だということになる。ちなみにそういうことなので、情報公開請求は誰でもできる行為である。これ結構面白いので興味のある人はやってみるよろし。

ということで、これでは情報公開制度がないがしろにされていることになり、それはまずいだろう。そんな時に頼りになるのが行政不服審査法。行政の行いに文句があるときは申し出て第三者に審査してもらう制度だ。ちなみにこれも誰でもできる。ということで、ヨメサンが不服審査を請求したのが7月のこと。こうして審査会が開かれることとなった。

これに対して行政は弁明書というのを出してくる。なぜ非公開にしたかについて、より詳細に理由を説明するための文書だ。曰く、この情報は広く公開したものではない、まだ事業は計画段階で内容は将来変わりうるので今公表したら誤解を与える、会社や関係する住民が公開に同意していないところで公開すると信頼関係を損ねるし住民にも不利益がある、また会社が事業に参加するときの要綱にこの書類は会社の了承を得て公開することができると書いてあり了承が得られていない、ということだった。

と、このような書類が出てきたところで審査会は、ヨメサンを呼び出して意見陳述させる機会を設けた。同時に行政からも事情聴取が行われる。審査会では申立人は一人補佐人を連れて行くことができる。籠池証人喚問時に横に控えていたあの人の役回りだ。といってもヨメサンに弁護士を雇う金はないわけで、代わりに私が動員されるわけ。

つうことで、素人ながら情報公開条例と、その趣旨と解説を書いた冊子、また他の自治体で同じように不服審査になった事例について丁寧に読み込み、意見陳述に備えたのね。で、10月の審査会当日は有給とって参加。

こちらの主張のポイントは、第1に、公開されていないこと将来変わりうること同意を得ていないことは会社や関係住民が著しい不利益を被る原因にはならないことだ。情報公開条例の解説書には、非公開情報の例として、生産技術に関する情報、営業・販売活動に関する情報、信用に関する情報、経理・人事に関する情報、が挙げられているわけで、非公開の部分がどう具体的にこれらの種類の情報になっているのかくらい説明してもらわないと困る。そもそも黒塗りにした部分がすべてこれらの情報で埋め尽くされているわけがない。ところで解説を読むと、確かに未成熟で将来変わりうる情報について非公開にできるとする部分があるのだが、それは条文的にいうと島本町情報公開条例第5条第1項第5号に関することで、一方町は本件は第5条第1項第3号に基づき非公開にしたと主張しているのだから、5号に関することを持ち出すのは不当というものである。

第2には、町が会社や関係住民からの信頼を失うことなんてこちらは知ったことではないし、信頼を失って町が不利益を被ったとして、それは情報公開の趣旨からいって非公開の理由にはなりえないことだ。非公開にできるのは、あくまで他の住民や法人など町以外の何かの不利益になるときだけだ。ところで解説書にはやはり信頼関係云々と書いているところがあるのだが、これは島本町情報公開条例第5条第1項第8号に関することでやはりここで持ち出すのは不当だし、そもそもこれは行政機関が第三者に依頼して非公開を条件に提供された情報について非公開にできることを定めたものであって今回の件にはあたらない。なんか、こういうちょっと調べればすぐにデタラメだとわかることをのうのうと主張してこられると、なんかオレばかにされてるんじゃない?とちょっと不快だったりする。

第3は、要綱に何が書いてあろうと、一度町が得た情報なのだから、それを公開するかどうかは条例に則って判断すべきということだ。こんな理由を持ち出してくるのは、どう考えてもおかしく、それがもし認められようものなら情報公開制度が機能不全を起こしかねない。

そして第4点目、実はこれが一番重要で大きな問題を孕む箇所と思われる。今回の情報は町が作ったものではなく第三者が作ったものなので、そういう場合公開の諾否を町が判断する前にその第三者の意見を書類で求めるプロセスがあって、今回の場合も第三者に意見を求めたところ会社も関係住民も公開に反対とのことだった。とはいえ、町の判断は、第三者の意見にそって決めるのではなく、非公開情報について書かれた島本町情報公開条例第5条に書かれた条件に当てはまるかどうかで行う旨、解説書にもはっきりと書かれている。ところがだ、その第三者の反対意見書を別の人(こちらも同じ件で情報公開請求してやはりのり弁食らって不服審査に持ち込んでいる)が情報公開請求で入手したところ、そこにあった文面が、町の出してきた弁明書にコピペされていることがわかったのだな。これは、町が公開の諾否について条例に基づいて自ら判断したのではなく、第三者の意見をそのまま受け入れて決定を行なっていることを意味している。これは制度のあるべき運用法から逸脱していると言わざるをえない。

総合すると、町は情報公開制度の趣旨やあるべき運用に基づいて今回の処分を行なったとは到底認められないのであって、ほぼ全面的な非公開というのは不当である、と、ヨメサンと私はそう主張したわけだな。いや、私は素人だけど、その目から見ても、なんぼなんでもこの条例をちゃんと理解していたらこんな処分絶対下せないわけで、まともに審査が行われるなら、必ずこちらに有利な裁定が出るはずだと思うわけ。しかしとはいえ、この手の審査会が行政よりの判断を下すこともよく見聞きするところ。どうなるものやらと思いながら一月が過ぎ二月が過ぎ。気がつくともう9ヶ月も経っとるやんけ!いつになったら結果出すんじゃゴラアとヨメサンが怒るわけだけど、なんか審査会で意見集約に時間がかかったりその後の答申書書きにもたついたりしていたらしい。そうだろうそうだろう、我々の論証に基づけばこれは公開せざるを得ないよ。でもやっぱり行政の意に沿わない裁定するには慎重になるよねそりゃね、と思っていたわけ。まあそれでも9ヶ月は長いわな。

と、前振りが長くなったのだけど、そんな審査会の答申が今日届いて、結果は一部非公開の部分は残るものの大部分を公開せよとのことであった。ひゃっほう。これは勝利と言って良いのでは?生まれて初めて関わった行政不服審査でお上の判断を覆してやったよ!(まあ行政の主張の仕方があまりに隙だらけだったからなのだが)あげく、答申の最後には付帯意見として、最初の町のほぼ黒塗りの公開が、第三者の意見を鵜呑みにして行われたもので町独自で精査して判断した形跡がなく、情報公開の原則に則っておらず流れに逆行しているものであり、町は情報公開に対する姿勢を改めるべき、と述べられている。まさにこちらの主張がそのまま受け入れられているわけで、まあなんていうの?大勝利なんじゃないのこれ?