海の底には何がある

これは日記だ。ブログじゃない。

へっぽこ大学が目指すべきところ

崖っぷち弱小大学物語 (中公新書ラクレ)

崖っぷち弱小大学物語 (中公新書ラクレ)

Webをブラブラしていて「崖っぷち弱小大学物語」という本を、元霊長研の杉山幸丸先生が最近出版された事を知り、急いで本屋に買いに出かけた。杉山幸丸といえば私の業界では大変な有名人である(きっと覚えておられないだろうが、私も大学院入りたての頃に一度だけお話しさせてもらったことがある)が、この本では霊長研を退官後に勤めた小さな私立大学での体験を元に、大学論・教育論を語っている。サルの話も少し出てくるのはご愛嬌だ。

この業界の片隅にいるものとして、最近流行の大学本は何冊も目を通しているわけだが、その多くは外部から評論家的に書かれているものであったり、そうでない場合でも有名どころの大学に在籍している人が雲の上の問題を語っているに過ぎない物が多かった。これらの本は、私のような決して有力大学とは言えない所(かといって今いる所はへっぽこ大学というわけでもないが)を渡り歩いている人間の目からは、本質を外れたところを論じているように見え、いつも食い足りない思いがしていた。一方、この本は「弱小大学」(自分の大学をこう言いきってしまって大丈夫なのかしら?)の中にいる者の立場で書かれていて、その内容には強く共感する。問題意識や「弱小大学」の目指すべき方向など、私も日々考えている事と重なる部分が多くって、赤ペン持って線引いて回ろうかと思うくらいであった。

やや理想主義的なきらいはあると思う。例えば、この業界でこれから30年暮らしていこうと思っている若手に、専門の事は忘れて教育に励めと言っても聞いてはもらえないだろう。それから、どれほど教員が努力したとしても、小中高で身に付かなかったしつけや基本的なコミュニケーション能力を大学で獲得できる学生はほとんどいないだろう。あまりに労多くして益少ない事に思える。

それでも、愚直に学生の立場から(決して学生をお客様扱いするのではない)大学教育のあり方について訴えるくだりは、決して意味のないものではないと思う。昨今の浮ついた、誰のためだかよくわからない教育改革を声高に叫ぶ向きに是非とも読ませたい。