海の底には何がある

これは日記だ。ブログじゃない。

水は低きに

学会二日目。今日はポスター賞の審査員のお役目がある。私は学会の賞と言うものに対して素直でない気持ちを持っているので、お役目の依頼があった時に引き受けるべきか否か大変困ったわけだ。特に、今年の学会は東アジアの国の人がいつもよりたくさん来られると言う事で、発表は英語で行うよう上の方が旗を振っており、ポスター賞に応募する場合は英語発表を義務づけられていると言う。で、またまた私が国内学会での日本人による英語発表に微妙な気持ちを持っていると来た。という事で、日頃の主義主張とあわない事への協力依頼はお断りすべきところ、でも若い人が賞周りの仕事でいろいろ働いていると聞くにつけ、この歳でそんな世を拗ねた事を言うのもどうかと思って、引き受けたのであるよ。

で、朝から出かけていって、まずは審査対象の発表を見て回る。12時から14時はコアタイムで会場はごったがえするので、空いているうちにポスターを読んでおく必要があるからだな。で、やはり英語は読むのに負荷がかかるわけで、一通り目を通すだけでグッタリ。一応、審査対象じゃないのも見ておかないとと思うものの捗らない事甚だしい。へー、と思ったのは、アブラムシの幼虫死体を背中に飾って随伴アリの攻撃を避けるクサカゲロウの幼虫の話。

そうこうしているウチにコアタイム。審査項目の中に、話し方に関わる事があって、それはコアタイムに評価しなくちゃいけない。英語の上手下手は問わないけど、ともかく話し方を評価するのだ。だけど、実際は英語発表の義務などどこへやらで、皆さん闊達に日本語でコミュニケーションされている。当たり前である。どこの日本人同士がわざわざ英語でコミュニケーションするもんかいな。ということで、極めて健全なポスター会場に安堵する私がいる一方で(いや、もしこんな風に上からの指示を受けて、皆が唯々諾々とこの効率の悪いコミュニケーション手段を使用していたら、その光景はかなり気味の悪いものになっていたはず)、これじゃあ評価のしようがない。いや、何度も言うけど、私的にはこれは当然予想される事態だけれども、会場では時々、「英語発表が義務のゆえ聞き手もそれを考慮してできるだけ英語で質問するように」との放送が流れるわけだけれど、審査員以外誰もそんなことを聴いちゃいない(審査員だってどのくらい聞いているかわかったもんじゃないぞ)。私はまじめだから、英語で話そうと思うけれども、大概ポスターの前に行くと誰かへの説明の途中であって、その日本語の会話にわざわざ下手な英語で割り込むのは、今聞いている方にとってはかなりの邪魔になるわけだから、ちょっとそれはやりたくない。そもそも、こちらが審査員である事はなるだけ気取られないようにしろとの指示もあるわけで、そんなめっちゃ不自然な事するのってどうよ。

ということで、どうしたもんか困ってしまい「いやー、こりゃ今から発表者が英語に切り替えるわけないですよー。この項目評価不能にしていいですかあ?」と責任者の方にお伺いに行く。そしたら責任者の方を含む数名の方がちょっと話し合いをされて「英語で質問してください」と追加指示をされてしまったのである。いや、そんなんいうけど、そのタイミングを見つけるのが難しいんですけど、と少し抵抗してみるけれど、とにかく英語にしてもらうようにということで、すごすごと再びポスターの前へ。ずーっと聴衆が途切れるのを待てば、やっと質問ができるわけだけど、すると通じないんだこれが。4人に試して最後まで英語で会話が続いたのが一人だけ、後の3人とはどうしようもなくなってしょうがないから「ごめんなさいもう日本語でいいですよ」と言う事にしてしまった。そんなこんなで一つ一つ異様に時間がかかって、時間切れで英語の発表の状態に接してないものが残ったまま終了。ということで審査票を提出するときに、「この項目は、自分では公平な評価を下せた気がしない」と言うコメントを添えてみたら「最終的な受賞者選定にはこの項目を使わない事にする」と言われた。その対応は全く正当で、一ミリも異論はないのだけれど、もうちょっとその結論に早く達して欲しかったよ!(聞こうと思ってた発表聞けなかった。とほほ)っていうか、私に言わせれば、その結論はやる前から自明だったのでは?

いや、研究しようとする若い人に英語の能力が必要である、というのはそのとおりだけど、学会はその練習のための場じゃないと思うんだなあ。英語力向上は他の場でやろうよお願い。

その後、シンポジウムに1つでて、恐竜絶滅を引き起こした隕石が衝突した時は地球上で最も温度の低いところでも260度ほどの温度が数分続いたと聞いて仰天する。その温度だと地上の生物は全て焼き尽くされるような気がするのだが、よく今みんな生きてるな。こんな仰天を得てもポスター会場での疲労から回復する事能わず、最後の集会はパスして早めに帰ってくる。