海の底には何がある

これは日記だ。ブログじゃない。

一人じゃない

寄生虫なき病」を読んだ。寄生性・感染性の生物に囲まれた環境で進化してきた私たちの免疫システムは、過剰に清潔な現代の生活環境では暴走を起しがちで、それが、現代人に増加しているアレルギーや自己免疫疾患の原因となっているという、いわゆる衛生仮説について、最新の知見を詳細かつ大量に紹介してくれる本。

本書ではさらに驚くべき示唆さえ示される。免疫系の暴走は単なるアレルギー疾患を引き起こすだけではなく、自閉症やうつ、がん、メタボリック症候群など近代になって増えてきている他の症状も免疫暴走の結果かもしれないというのだ。さすがにここまでくると、そんなに何でもかんでもの原因になってるってホントかしら?とも思うのだけれど、しかし著者の示す証拠の数々を前にすると、その可能性を一笑に付すこともできなくなってしまい、そう言えば4月に人生で何十年かぶりに抗生物質飲んだけど、その悪影響が心配になってくる。以前にもまして糖分を避けて繊維質の物を食べなきゃいけないような気に、、、いやいっそ土でも食ってやろうかしらとまで思ったり。

それはともかく、この本の説得力の一翼を担っているのが、著者自身が免疫系の病気を抱えていて、それに対して自らアメリカ鉤虫(本書の表紙はその禍々しいというかありがたいというかのお姿)に感染してその効果を経験したことを記述する部分。それは自分の健康に関わることについてなら記述にも熱が入るというものだと納得する。

本書の挙げる様々な証拠によって、我々の健やかな生活のためには共生する寄生虫や細菌が必要だ、と言う結論には説得力がある。で、本書は最終盤で、それってつまり生物多様性を守ると言うことである、と論旨を展開させる。これは目からうろこである。しかし、言われてみるとまったくその通りで、トキの個体群を維持するのに彼らが適応してきた環境を丸ごと保全する必要があるのだから、寄生虫や細菌を維持するにも我々の生活環境を我々が適応してきた状態に保つ必要があるのは当然だ。そして、それはまさに生物多様性保全そのものであると言う。多様性保全と関わる場所では生態系サービスとかいろんなことを言うわけだけど、そんなことよりなにより、自然環境の改変を抑制する事は我々の生命と幸福に直結する重要なポイントであるという、こっちの方がよっぽど大事でアピール力があるように思う。

というわけで、必読。

寄生虫なき病

寄生虫なき病