海の底には何がある

これは日記だ。ブログじゃない。

「ぐ」

夫婦というのは毎日毎日毎日毎日顔をつきあわせているものである。3年も経てば、だいたい相手の考えている事や言いたい事はわかってくるので、会話に対する注意力が散漫になってくる。もちろん結婚生活の肝は配偶者の言うことを8割方聞き流す事なのだが、残りの2割まで聞き逃すようになってはいけない。そこで我が家では、会話の中にわざとひっかかりを作るという現象が現われてきた。


どんなひっかかりかというと、会話の中に普通でない言葉を混ぜ込むのである。ひっかかりを聞かされると、認知的不協和が引き起こされ、それによって注意力が喚起され会話が流されないようになるという仕組みだ。いや、もちろんこういう事を意識してやっているわけではなく、どうも我々はそういう行為をしているらしいと後から気がつくのである。


で、うちのヨメサンは三河の出身であり、そこでは命令形に「〜子音+いん」という表現をする。「これを持て」ではなく「これ持ちん」であり、「もう寝ろ」ではなく「もう寝りん」である。で、夫婦と言うもの、相手の言葉の癖が移るのは必定。私も最近は三河弁の免許皆伝である。


それにしても「in」と来れば「ing」と続けたくなるのは物の道理。ほら、進行形を使う事で、より動詞の意味が生き生きとして伝わってくるでしょ。「掃除しりんぐ」「この本を読みんぐ」。というわけで、我が家では俄に日本語の動詞の進行形化が流行りだし、そのうち命令形以外にも使われるようになった。「それ取ってんぐ」「もう寝るんぐ」。


ここ数日はついに「今日のご飯は何ぐ?」という表現まで現われはじめた。いや、さすがにここまで来ると私もハッと我に返って、この事態は一体どういう事かとつらつら思い、前段までの説明(ひっかかり形成という機能的説明とここに至までの歴史的説明)を思いついたわけだ。人が二人いると言う事は面白いものだなあと思って、恥を忍んで記してみた。