海の底には何がある

これは日記だ。ブログじゃない。

シネマチップス

子供ができてから極力早く帰るようにしている。仕事をしてても調子が出ないときは、下手すると6時台に家に帰ってくるときさえある。で、その時間帯テレビではローカルニュースである。朝日放送系列では、九州沖縄地方のニュースを流している。すると琉球朝日放送からの中継に出てくるアナウンサーに、見覚えがあるのだ。


いや、いくら私が以前沖縄をフィールドにしていたからといって、そうそう彼の地に知人がいるわけではない。うんうんうなって思い出してみると、どうも昔大阪の毎日放送に出ていた人ではないかということに思い至る。いや、しかし出ている番組は朝日系列。どういうことだ?で、今日その人の名前が出てきたのでGoogleで確認してみることにする。


ビンゴ。その人の名は三上智恵さん。もちろん私はテレビで観ていたので知っているというだけだが、係累の全く無い土地で古くからの友人に会ったような気がして懐かしい。で、懐かしいのでいろいろぐぐっているうちに、「シネマチップス」という語が目に入った。


おおおおおおおおお。シネチ。すっかり忘れていた10年ほど前の記憶の断片が頭の中で急速に再構成されていく。そうだ。この人はシネチの人だったんだ。


シネチ。それは関西のボンクラ映画ファンが大好きだった番組。毎日放送の三人の年増女子アナ(失礼)が、公開中の映画を遠慮容赦なく言いたい放題のやんややんや。一部の良識派は眉をひそめていたものの、普通にお金を払って劇場に通う映画ファンなら、つまらない映画に当たれば口汚くののしりたくなるもの。そのあたりを代弁してくれるこの番組のファンは密かに多かった(今の井筒のようなものか)。パブリシティーに冒された映画評論などつまらないと、誰もが思っていたのだ。


(関西では有名な話なのだが)そんなシネチはある日突然終了した。ある作家さまが作ったモンゴルが舞台の映画に、シネチがいつものように悪口を言ったことに作家さまが激高し、彼からの圧力に毎日放送の上層部が屈したという話だ。関西の心ある映画ファンは涙し、私もその一人だった。


その直後に私のウチのテレビは壊れ、それをきっかけに私はテレビを見なくなった。なので、三上アナが毎日放送を辞めたというニュースも、今思い返せばどこかで聞いていたように思うが、私の頭の中に残ることは無かったようだ(残っていれば思い出すのにあんなに苦労はしなかったろう)。


そんな三上アナが、長崎の私の家のテレビに映っている。ここによると、もともと大学で沖縄民俗学を専攻しており、大学卒業時は琉球放送にも就職希望だったとのことなので、三上アナにとっては毎日放送から移ってきたのは自然な選択だったのかも知れない。そう思うととても心が安らぐ。


しかし、この作家さまのように不当な動機に基づいて(映画作家たるもの、自分の作品への批評は甘んじて受けなければならない。それが不当だと思えば、次はもっとよい作品を作る。それだけのはずだ)圧力をかけ権威を振りかざし人の人生に介入する者は、心よき人々の敵である。人々はこういう者共の圧力に負けてはいけない。でも、どうしようもなく影響を受けてしまったとしたら、それでも志だけは枉げずに気高く暮らしていかなきゃいけないのだ。


三上アナが今後もどんどん活躍することを、シネチの一ファンだった私は願います。そして、どこかでまたあんな番組をやってくれたらサイコーです。