海の底には何がある

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911の本

9・11生死を分けた102分 崩壊する超高層ビル内部からの驚くべき証言

9・11生死を分けた102分 崩壊する超高層ビル内部からの驚くべき証言

WTCに最初の一機がぶつかってから崩壊するまでの102分に、同時多発的に生じていた脱出と救出の物語(成功も失敗もある)を、渦中にいた人たちの膨大な証言から、映画で言えば「グランド・ホテル」形式的に描いたものである(帯に「映画化決定」と書いてあるけど、良いのだろうか)。どうでもいいが、この本を読むと、この形式の有効性がよくわかる。

381ページだから一分当たり約三ページの描写がある事になるが、その高い事実密度に息もつかせず読み切った。内容的には、ビルを設計する上での経済性重視の考え方が安全面の欠陥を産んだ、という批判もあるが、全体としては人の心を打つ力を持った人間ドラマである。というわけで、映画化したくなる気持ちもわからないではないが、でもねえ。

出てくる人たちのほとんどは、全体の状況がわからず目の前の事態を必死に片づけていくのであるが、そんな人たちの運命を左右するのが、彼らがどう考えどう行動したかというよりも、ほんのささいな運や成り行きである事が多いことに、あらためて慄然とする。私たちの生活はいかに薄氷の上に成り立っている事だろうか。一機目が来たタワーに激突した直後、南タワーから真っ先に避難したのに、下で警備員に「こっちは大丈夫だからオフィスに戻れ」と言われて、戻った途端に二機目に突っ込まれる話などを読むと、何が良い手かを考え出すとパラノイアになりそうで怖い。あと、北タワーでエレベーターの中に一人周りの状況が全くわからないまま閉じこめられ、倒壊直前にドアが開いて脱出できた人の話が印象に残る。がれきの山と化したロビーに出てきて、さぞかし驚いたことだろう。