海の底には何がある

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複雑な行動のコスト

Mぺさんと書いた論文が、Animal Behaviourでオンライン公開されました。

Nakata, K., and Y. Mori. 2016. Cost of complex behaviour and its implications in antipredator defence in orb-web spiders. Animal Behaviour 120:115-121. doi: http://dx.doi.org/10.1016/j.anbehav.2016.07.034.

この論文の背景となる問題意識は「動物の行動には、なぜ複雑なものと単純なものがあるのだろう?」というものです。

この問題に対する一つの答えの可能性が「複雑な行動をするにはコストがかかるから、メリットのないところでは行動は単純なままにとどまる」というものです。複雑な行動のコストとしては、大きな神経系を作るコストが一つ考えられますが、もう一つ、複雑な行動にはより時間がかかるというコストもあるだろうと私たちは考えました。複雑な動きをすることで時間がかかることももちろんですが、複雑な行動の背後にある複雑な意思決定をするときにも、おそらくより時間がかかるだろう、と、この研究ではそこを探るのが目的です。

具体的には、クモの造網行動が対象です。クモの円網にはサイズの上下非対称性が見られることがあります。上下で大きさの違う網に、粘着性の横糸を張っていこうとすると、その途中で糸の間隔や本数を調整する必要があります。一方、対称な網ではその必要はありません。そのため、非対称な網を張るのは意思決定の面でより複雑だと考えられます。実際、造網時間を観察して比べてみると、網の形が非対称になればなるほど、単位長さあたりの横糸を張るのにかかる時間が長くなることがわかりました。やはり、複雑な意思決定に基づく行動には時間がかかるのです。

さて話はこれだけにとどまりません。複雑な行動を行うのがより時間がかかるとするならば、逆に動物が切羽詰まっていて時間的余裕に欠けている時は、複雑な行動を取りにくいだろうと考えられます。動物にとって、捕食者が近くにいる時は、切羽詰まっている時の筆頭で、エサを食べるための行動をゆっくりすることは難しいでしょう。で、クモの造網はエサを食べるための行動です。

実は私は捕食される危険性が網の大きさに与える影響を過去に調べたことがあります。そこでその時の実験結果のデータを引っ張り出してきて、捕食者の影響が網の非対称性にも見られるかどうかを解析してみました。すると、ギンメッキゴミグモ、サガオニグモの二種で、捕食される危険があるときは網の非対称性が失われ、より対称な網を張るようになる、という結果が得られました。つまり、これはクモが状況に応じて、網の形を変えており、そこには複雑な行動の時間コストが関与していることを示していると私たちは考えています。

ということで、動物の行動を考えるときには、意思決定のコストベネフィットも重要な要素として考慮に入れる必要があるんじゃないかな、という話です。

下のリンクから10/19までPDFがフリーでダウンロードできるそうなので、興味のある方は論文もご覧くだされば幸いです。

http://authors.elsevier.com/a/1TdvcmjLetuf